ー近江の麻織兄弟ー
煙草を吸い、コーヒーを飲み、機を織る。
お酒を飲み、床に就き、早朝に起きて、機を織り、一休みして煙草を吸う。
また機を織る。
毎日淡々と、ひたすらに麻を織る。
滋賀県愛知郡愛荘町。藤居織物工場。
琵琶湖の東側。小さな町の小さな機屋で、藤居兄弟は今日も麻を織っています。
弟の伸造さん
硬く、伸度がなく、長いケバがあり、形状も不規則なリネンは、とても織りづらい糸です。
不慣れな工場では1分と織機を回すこともできません。
藤居織物工場は、そんな難しいリネンの製織を専門に手掛ける工場です。
扱う生地はリネン100%。もしくはリネン交織生地。
藤居織物工場がある湖東地区は、古くから麻の産地として知られています。
リネンの製織は乾燥した状態を特に嫌います。間近に巨大な水がめ、琵琶湖を抱える湖東の大気は水分をたっぷり含んでいて、麻の製織には非常に適した場所なのです。
さらに藤居織物工場の内部には巨大な加湿器があり、工場内の湿度を上げて、より織りやすくする工夫をしています。
工場内で稼働する15台の織機は全てリネンの製織に適したレピア織機。さらに兄弟の手によって、リネンを織りやすいように細やかな調整がなされています。
タテ糸を作るための部分整経機が2台。小さな工場ですが、リネン糸をビームに巻き、織機に載せて、織る、という一通りの作業を全てこなすことができます。
弟の伸造さんが主に整経を担当し、兄の善次さんが織を担当。そうやって兄弟力を合わせて、朝から晩まで一年中、50年間リネンを織ってきました。
兄の善次さん
華やかなファッション業界において、製織はとかく地味な工程です。
暗く、やかましく、埃の舞う工場にこもって、ひたすらに生地に向き合う一見単調な作業です。
しかし、「織物」で服を作ろうとするならば、「織」の部分は素材の価値、服の価値も左右する非常に重要なパートなのです。
リネンテキスタイルの根幹をなす製織について、藤居兄弟に語っていただきました。
朴訥とした言葉の端々に、機織の本質が見え隠れします。
どうぞご覧ください。