journal vol.3

ー近江の麻織兄弟ー

煙草を吸い、コーヒーを飲み、機を織る。

お酒を飲み、床に就き、早朝に起きて、機を織り、一休みして煙草を吸う。

また機を織る。

毎日淡々と、ひたすらに麻を織る。

 

滋賀県愛知郡愛荘町。藤居織物工場。

琵琶湖の東側。小さな町の小さな機屋で、藤居兄弟は今日も麻を織っています。

 

弟の伸造さん

 

硬く、伸度がなく、長いケバがあり、形状も不規則なリネンは、とても織りづらい糸です。

不慣れな工場では1分と織機を回すこともできません。

藤居織物工場は、そんな難しいリネンの製織を専門に手掛ける工場です。

扱う生地はリネン100%。もしくはリネン交織生地。

 

藤居織物工場がある湖東地区は、古くから麻の産地として知られています。

リネンの製織は乾燥した状態を特に嫌います。間近に巨大な水がめ、琵琶湖を抱える湖東の大気は水分をたっぷり含んでいて、麻の製織には非常に適した場所なのです。

さらに藤居織物工場の内部には巨大な加湿器があり、工場内の湿度を上げて、より織りやすくする工夫をしています。

 

 

工場内で稼働する15台の織機は全てリネンの製織に適したレピア織機。さらに兄弟の手によって、リネンを織りやすいように細やかな調整がなされています。

タテ糸を作るための部分整経機が2台。小さな工場ですが、リネン糸をビームに巻き、織機に載せて、織る、という一通りの作業を全てこなすことができます。

弟の伸造さんが主に整経を担当し、兄の善次さんが織を担当。そうやって兄弟力を合わせて、朝から晩まで一年中、50年間リネンを織ってきました。

 

兄の善次さん

 

華やかなファッション業界において、製織はとかく地味な工程です。

暗く、やかましく、埃の舞う工場にこもって、ひたすらに生地に向き合う一見単調な作業です。

しかし、「織物」で服を作ろうとするならば、「織」の部分は素材の価値、服の価値も左右する非常に重要なパートなのです。

リネンテキスタイルの根幹をなす製織について、藤居兄弟に語っていただきました。

朴訥とした言葉の端々に、機織の本質が見え隠れします。

 

どうぞご覧ください。